技能実習生制度に代わる新制度「育成就労制度」とは?

外国人の日本での就労制度の一つである「技能実習制度」を「育成就労制度」に改める法律が、

国会で2024年6月14日に可決成立しました。

 

技能実習制度は外国人の単純労働者は受け入れないという政府の方針のもと、1980年代の人材不足の中で、

外国人の単純労働受入れの枠の一つとして作られました。

人材育成による国際貢献を目的とした制度であり、終了後の実習生帰国を基本としている。

ただし、現在は「特定技能」の在留資格を得て日本国内で就労を続けるという道も開かれている。

雇用契約を結ぶものの研修という名目上、転職が制限されるなどの制約があり、人権上の問題も生じました。

 

新しい育成就労制度は、人材育成とともに人材確保も目的としており、終了後の特定技能資格移行を

前提とした制度となります。

転職等も一定の条件のもと認められるなど人権面の配慮も充実させてあります。

その一方で、新制度は基本的に特定技能の対象職種のみを対象とするため、技能実習制度対象の一部の職種は

育成就労制度の対象外となる見込みです。

 

育成就労制度実施日は2027年から開始される予定で、3年間の移行期間を設ける方針があると報じられており、

新制度への完全移行は2030年頃になる見通しです。

技能実習制度の廃止

技能実習生制度の廃止は、一部で人権侵害や労働法違反、不適切な労働環境などの問題が報告されたことを受けた動きです。

これらの問題は制度の運用が始まった当初から存在しており、改善が求められていました。

政府はこれらの問題に対応するため、制度の見直しを進めてきました。

新制度によりこれらの問題が解消されることを期待しています。

技能実習と育成就労の違い

【技能実習】・・・国際貢献、技術の移転

【育成就労】・・・人材確保、人材育成

 

技能実習制度は開発途上国の経済発展を担う「人づくり」を目的とした国際貢献のための制度です。

在留期間が1号が1年、2号が2年、3号が2年の計5年間、日本で就労できますが、

転職が認められていません。

 

育成就労は、3年の在留期間が基本となります。

育成就労では人材確保と人材育成が目的とされており、就労を目的とすることが明確になっています。

また、人材育成という目的も技能実習のような「母国の発展を担う」ためではなく、特定技能1号に

移行可能な人材を育成することとされています。さらに高レベルの熟練技能が求められる特定技能2号の

試験に合格した場合は、家族の帯同と就労制限なしの条件が可能になります。

 

育成就労は、特定技能への移行で将来的に永住権獲得の道も開かれる在留資格として検討されています。

 

また、技能実習制度では認められなかった転籍については、下記の3つ全てを満たす場合、可能であるとされています。

 

・同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていること。

・技能検定基礎級及び日本語能力検定A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること。

・転籍先となる受入れ機関が、例えば在籍している外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下で

   あること、転籍に至るまでのあっせん・仲介状況等を確認できるようにしていることなど、転籍先として

 適切であると認められる一定の要件を満たすものであること。

 

また育成就労として配属後2年以下で途中帰国した場合、前回とは違う分野で育成就労として改めて来日し就労することも可能とされており、受入れの幅が広がるかもしれません。

 

 

育成就労のメリット

●外国人材側のメリット

 

 ・転籍が可能になる

  技能実習制度では転籍不可でしたが転籍可能になります。条件は上記の通り定められており、むやみに

  転籍ができるわけではありませんが、一定の条件を満たせば転籍が可能になるため、外国人材はより

  自由な職場選択が行えるようになります。

 

 ・費用負担が減る

  これまで技能実習生は、母国から日本へ入国する際に送り出し機関への手数料や渡航費等を自己負担して

  いました。この金額が大金であるため多くの実習生は借金を抱えて来日しているのが現状でこれが問題に

  なっていました。そこで育成就労では受入企業もこの費用を負担することになるため、外国人材はより

  日本で働きやすくなります。

 

 ・労働基準・人権保護

  技能実習制度では労働基準や人権上の問題があったため、新制度ではこの点が厳しく運用されることが

  予想されます。外国人材にとってはより働きやすい環境が用意されます。

 

 ・日本でのキャリア形成、長期就労が可能

  育成就労では特定技能1号に相当する能力を所有できる育成が行われます。

  その後も特定技能1号・2号として引き続き就労することが可能で、日本でキャリアを築き長く働きたい

  外国人材にとっては魅力的な制度となるでしょう。

 

●受入企業側のメリット

 

 ・日本語能力が高い人材を受け入れることができる

  技能実習制度では受入時に明確な日本語能力に関する基準がなかった為、日本語能力に差がありました。

  育成就労では受入時に日本語能力N5以上などを条件としているため、日本語能力の高い人材を受け入れる

  ことができるようになります。

  また、育成就労が浸透して環境が整備されれば、より優秀な人材が日本で働きたいと集まってくる事が

  予想されます。

 

 ・長期雇用が可能になる

  技能実習制度は最長5年までしか受け入れができません。

  育成就労では、3年間の育成就労後も特定技能1号の在留資格を取得できれば、そのまま継続して

  働くことができるため、大切に育てた人材を長期間雇用することが可能になります。

育成就労のデメリット

●受入企業側のデメリット

 ・負担が増える

  育成就労では外国人材が送り出し機関に支払う手数料や渡航費を受入企業も負担することになります。

  労働基準や人権保護がより厳しく運用されることで賃金や労働時間など労働環境の見直しを図る必要が

  でてくるかもしれません。

 

 ・人材の流出

  条件付きとは言え転籍が可能になったことで人材がより好条件の企業に流出してしまうことが

  予想されます。

  特に地方の中小企業ではせっかく受け入れた人材が「給料が安い」や「労働環境が悪い」などの理由で

  都市部の企業に転籍してしまうことを不安視する声が今から上がっています。

 

 ・受入れ可能な職種の範囲が狭まる

  技能実習制度では90種の職種にて人材の受け入れが可能でしたが、育成就労では特定技能と同じ

  12分野のみとなります。

  特定技能制度自体の対応職種が今後増える可能性もありますが、現状のままでいくと新制度では

  技能実習制度よりも受入れ可能な職種が狭くなります。新制度を利用できない職種も多いと考えられます。

まとめ

技能実習生制度に代わる新制度「育成就労制度」について解説しました。

 

1993年から制度が開始され、国際社会でも非難を受けていた技能実習制度ですが

廃止後の新制度は「外国人保護」の目的・意味合いが強い制度のように感じます。

 

外国人の雇用を検討されている企業の皆さんへ

新しい制度・在留資格等の情報については随時、情報をアップデートしていきます。

外国人を雇用したいが、制度や在留資格の事がよくわからない等、なにかあればお気軽に

お問い合わせください。